席
レストランなどで席を選ぶとき、人はそこに何らかの意味を見いだしている。隅の席に座った人が、翌日は中央の席を占めていたり、同じ人が「カウンターがいい」などと宣言してコックとさりげない会話を楽しんでいたりもする。そこに本人だけの意味が存在して。小さな子供を先頭に、家族連れがレストランに入ってきた。子供は「ここがいい」と言って席に座ろうとする。柔らかな色調の席に何かを見たのだろう。それとも、隠れ家みたいな場所に彼だけの意味を見たのか、子供はしごくご満悦である。次の瞬間、彼は親の手によって違う席に移動させられてしまった。彼のなかに生まれた小さな意味は、そのとき、無惨にも抜き取られてしまったのである。