目指す
森の奥にある沼のほとりに男が立っている。そばに三脚を立ててカメラを据えているので、写真を撮っている人だとわかる。そんな付属物がなかったらきっと散策する人の目には、怪しげな人にしか見えないことだろう。カメラの目指す先には、森の宝石と呼ばれるカワセミが切り株にじっと獲物を狙ってたたずんでいる。カワセミが水面に飛び込んだり、森の奥に飛び去ったりするたびにカメラも方向転換する。カメラマンにとってカワセミは格好の目標である。私たちにとっても、森の宝石や銀座の宝石のような目指すものがそれぞれあるはずである。それは突然目の前に現れたり、木陰に見え隠れしてわれわれを魅了してやむことはない。そんな目標を一つでも持つことができたら幸せなことである。