変身
「私」という存在は極めて危ういものである。そのことが顕著に現れることがあった。カルチャーセンターで講座中のことである。ホワイトボードの上に設置されている時計が突然故障して回り始めたのである。受講生の指摘で私は踏み台を使って取り外して受付に持参した。数分後スタッフが直った時計をもってきてくれたのを私が受けとって再び踏み台に登る。そのとき、「私」という存在は講師としての「私」から離れ、用務員になったのだ。時計の曲がり具合をスタッフから指示されているときはスタッフが現場監督で私はスタッフに。踏み台から降りた途端に、講師に早変わり。授業が終わって外に出れば通行人だ。私はたくさんの私に変身することができる。私は一人ではない。今日、今、次の瞬間はどんな私を演じることになるのだろうか。