心の傷
体の傷ははじめ服に引っかかるとかして気になるが、やがて皮膚が平らになる頃には、どこに傷があったのかさえ定かでなくなるものだ。心の傷はどうか。傷口という明確なものがない分、ふとしたことで思い出したり、頭をよぎったりするものだ。人は「忘れることだ」などと軽々しく言うが、本人の心の傷はなかなか癒えるものではない。どうしたらよいか。それは語ることに尽きる。傷ついた話にじっと耳を傾けてくれる人に対してのみ有効である。話が微に入り細に入り、熱を帯びて語れるようになれば尚更よいのだ。何度も語ることで、やがてなにごともなかったようになり、心の傷は完治に向かうのである。