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いかにも屈強そうな作業員風の男が、電車の車内で赤子を抱いた母親に席を譲っている。普段は苛烈な仕事に就いている人も、もっとも柔媚なものに心を配るものだ。昼のレストランで工事関係者たちが静かに箸を口元に運んでいるそばで、数人のサラリーマンが口を歪めて上司の悪口を交わすことに余念がない。人には両面があり、そのどちらも同じ人物を構成しているのである。