« 暦日 | トップページ | 元気 »
「夜雨、文に臨んで酒一杯」。古道具屋で初めて買った江戸時代の掛軸だ。店主が私に軸を持たせて、あなたが引っ張りなさい、とメガネ越しに目線を送る。店主は発相を持ったまま微動だにしない。引っぱって、先頭の一文字が現れたところで、買うか買わないか決めるのだ、と父は言った。全部を見なくても本物はわかると。私は小さな声で、買います、と告げる。店主は来歴、書家のことなど若い私に事細かに説明してくれた。そのとき、江戸と明治と昭和の私は一つになった。