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その借家はもともと料亭であった。三和土の玄関で靴を脱ぐと、少し左に配置された廊下は直接奥の部屋を覗けないようになっている。その部屋は低いかまぼこ天井になっていて、畳に座せば落ち着いた気持ちで庭に植えた八つ手を見るための肘掛け窓にしつらえてある。家全体が暗いが重苦しい感じがない。他にも檜風呂、格天井、欄間の彫り物など、裸電球の四畳半に倦むたびにそれぞれの部屋を巡って気分を癒すのには事欠かなかった。今は残念なことにマンションになっている。昭和の風情がまた一つ消えて行った。